ジャンパー(膝蓋腱炎 しつがいけんえん)
ジャンパー膝は、その名のとおりジャンプすることの多いスポーツをする方によく見られる状態です。膝のお皿の下あたりに痛みを感じますが、初期段階では競技に大きく影響しないことが多く、局所安静を行い、適切に処置をすれば症状は改善します。
一方で、治療せず放置すれば痛みはしばしば慢性化します。まれに、膝蓋腱(しつがいけん)が損傷したり断裂するケースもあります。
完治を目指し、再び問題なく競技に取り組むためにも、早期に医師の診察を受け、適切な治療を行うことが大切です。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)とは
ジャンパー膝とは、バレーボールやバスケットボール、サッカーのゴールキーパーなど頻繁にジャンプを繰り返すスポーツや、陸上競技などのスポーツをしている方によく見られる障害です。正式名称は「膝蓋腱炎(しつがいけんえん)」で、ランニングやジャンプ以外にも、階段を降りるときやしゃがむ動作などで膝蓋骨(しつがいこつ・膝のお皿)の下にある膝蓋腱(しつがいけん)が痛みます。
特に成長期の方、中でも10代の男性に多いことが知られていて、男性バレーボール選手では50%近くの方が経験するという報告もあります。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の原因
ジャンパー膝は、ジャンプや着地の繰り返しによって膝蓋腱に過度な負荷がかかることで発生します。
ジャンプやダッシュなどをするとき、私たちは膝の曲げ伸ばし運動を繰り返します。
膝を伸ばすとき、太ももの前側の筋肉郡である大腿四頭筋(だいたいしとうきん)が縮み、その結果生じた牽引力が大腿四頭筋とつながる膝蓋腱に膝蓋骨(しつがいこつ、お皿の骨)を経由して伝わります。
しかし、ジャンプなど膝を伸ばす動きを過度に繰り返していると、膝蓋腱が大腿四頭筋が引っ張る力に耐えきれず、炎症が生じたり部分的に損傷したりします。これがジャンパー膝が起きる原因です。
また、ジャンプなどの繰り返しだけでなく、大腿四頭筋の硬さや骨盤が不安定な場合に膝蓋腱への過度な負担につながる場合もあります。特に成長期には急速な骨の成長に筋肉がついていけず、より硬くなりやすいことも原因となります。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の症状
ジャンパー膝を発症すると、膝蓋骨の下のあたりが痛みます。初期には動かさなければ殆ど症状はありませんが、次のような動きをして、膝に負荷がかかると痛みがでます。
✔︎ジャンプ後の着地
✔︎歩いたり走ったりする
✔︎屈伸運動で膝を曲げる
✔︎患部を押す
また、痛みがあっても動いているうちに痛みが軽くなる場合もよくありますが、これは一時的に痛みを感じにくくなっているだけで、運動することで膝蓋腱炎が改善しているわけではないので注意が必要です。
Roelsらによる重症度分類
ジャンパー膝は、その症状によって次のように分類されます。
最重症の段階になることはまれですが、この段階になると膝蓋腱が部分的または完全に断裂することもあります。 膝蓋腱が損傷すると再び競技に復帰するには、損傷した腱の縫合などの治療が必要となるため、重症化する前に対応することが望ましいです。
膝蓋骨や膝蓋腱周辺に痛みを出す主な疾患
膝周辺が痛む場合は、ジャンパー膝以外にも次のような疾患である可能性もあります。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)になりやすい人
ジャンパー膝は、次のような方がなりやすい傾向があります。
✔︎バレーボールやバスケットボール、サッカーなどジャンプする機会の多いスポーツの他、野球や陸上競技などダッシュすることの多いスポーツをしている人
✔︎部活動や競技スポーツとして取り組んでいる人
✔︎成長期にある10代
✔︎男性
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の予防法
ジャンパー膝の発症予防には、大腿四頭筋の柔軟性や強度を高め、膝蓋腱への負担を減らすことが大切です。また、体幹筋を鍛えて骨盤の安定性を高めることも予防につながります。具体的には次のようなことをするのがおすすめです。
✔︎運動前にしっかりとウォーミングアップをする:膝周辺の筋肉を温め、柔軟性を高める
✔︎膝周りの筋力を強化する:大腿四頭筋だけでなく、裏側のハムストリングスも鍛えることで、膝蓋腱への負担が軽くなる
✔︎運動後は忘れずストレッチをする:膝周辺の筋肉をほぐし、柔軟性を保つ
✔︎装具を使用する:サポーターなどを適切に使用し、膝への衝撃を和らげる
✔︎クッション性の高いシューズを着用する:衝撃吸収により膝への負担を減らす
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の診断と検査
ジャンパー膝を発症しているかどうかは、身体所見と画像所見によって診断します。
身体所見で確認するのは、痛みの発生箇所やタイミング、痛みの程度などです。主に次のようなことをします。
✔︎圧痛誘発テスト:膝蓋骨の上部を抑えた状態で、膝蓋骨下側を圧迫し、痛みが起こるかチェックする。
✔︎尻上がり現象の確認:患者にうつ伏せに寝てもらった状態で膝を曲げる。大腿四頭筋の柔軟性の確認と、痛みの回避の確認。
✔︎スクワット:角度と痛みの度合いのチェック
✔︎ジャンプ:距離や高さ、踏み切りや着地時の痛みをチェックする
また、腱の変性の程度など、詳しい状態を確認するために、次のような画像検査を行います。
✔︎レントゲン:膝蓋腱の石灰化の有無の確認や、骨の状態を確認するために行う。ジャンパー膝以外の他の症状の可能性を確認するためにも用いられる場合がある
✔︎MRI:膝蓋腱や膝関節全体の炎症、損傷の状態を確認するために行う
✔︎超音波(エコー)検査:腱の腫れや炎症状態を確認するために用いる
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の治療・手術
ジャンパー膝の治療は、その重症度に合わせて行います。軽症の場合は、物理療法や保存療法に取り組みます。これらの方法では、膝蓋腱への負担の軽減を目的とすることになるでしょう。効果が見られない場合や、腱の損傷の程度が重い場合は手術をすることもあります。
理学療法(リハビリテーション)
ジャンパー膝の初期段階では、膝周辺の血流の改善や大腿四頭筋の柔軟性の獲得による痛みの緩和を目的として理学療法を行います。具体的には次のような治療が行われるでしょう。
✔︎ストレッチ:股関節から太ももの前側、太もも裏、ふくらはぎなどを伸ばし、大腿部や膝から下部分の柔軟性を高める
✔︎筋力トレーニング:内転筋など股関節周りの筋肉や腹部体幹筋等のトレーニングをし、膝蓋腱の負荷を軽くする。
✔︎アイシング:炎症の軽減
✔気温熱治療:血流改善や炎症と痛みの軽減
体外衝撃波
従来の治療法を実施してもあまり効果が得られなかったり、症状の進行によって痛みが増したりしている場合は、体外衝撃波による治療が有効です。患部にあてることで、痛みの原因を減少させることができます。収束型と拡散型の2 種類があり、それぞれ次のような特徴があります。
✔︎収束型体外衝撃波:エネルギー波を1点に収束させることで、ピンポイントに照射できる。週1回程度で2~3回を1クールとして施行され、副作用が殆どなく比較的高い効果が見込まれるが、健康保険適応はなく自費診療としている医療施設が多い。トップアスリートやスポーツ医学の分野では良く用いられている。
✔︎拡散型対体外衝撃波:拡散する空気圧によって衝撃波を与える。患部を広く浅く治療できる。収束型に比べてポイントのエネルギーは少ないが、比較的広い範囲に照射でき、比較的軽度の炎症に対して用いられる。筋肉の柔軟性の改善の目的で用いられることもある。多くは健康保険適応の理学療法に併用して用いられるため、追加の自費負担は不要としている医療施設が多い。
当院ではこれら2つの体外衝撃波を導入しています。理学療法と組み合わせることで、高い治療効果が期待できるでしょう。
薬物療法、装具療法
疼痛動作を避けることは症状改善のためには重要です。具体的には運動を中止または制限しながら、以下の方法で痛みの緩和を図ります。
✔︎装具の使用:テーピングやサポーターを使用し、膝の安定性を高める
✔︎薬物療法:非ステロイド消炎鎮痛剤を用いて痛みや炎症を抑える。ただし、局所安静を行わず、長期間服用すると悪化するため漫然とした服用は避けることが望ましい。
✔︎注射:膝蓋腱へヒアルロン酸やステロイドを注射し、痛みを軽減する。PRP(多血小板血漿療法)注射によって損傷した組織の修復を図ることもあるが、繰り返す注射により却って膝蓋腱の変性が進む場合もあるので注意が必要。
手術治療
さまざまな治療を試みても改善が見られなかったり、炎症や損傷の程度がひどかったりする場合は手術をすることもあります。神経端末を電気焼却し新生を促すトパーズ法と呼ばれる方法や病巣切除術等がおこなわれていますが、完治するとは限りません。一定の痛みや違和感が残る可能性もあります。
手術を受けるかどうかは、医師によく相談をし、その得失を正しく理解した上で判断しましょう。
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サイト監修者について
整形外科河村医院 院長
河村 禎人
スポーツ整形外科や膝関節の治療を専門として努め、一般整形外科以外にも関節の変形による痛みに対してのリハビリなど手術によらない治療にも取り組んできました。
また、前十字靭帯断裂や半月板損傷などの膝関節鏡手術を中心として、スポーツ外傷、障害の手術やリハビリに取り組んでいます。