前十字靭帯断裂のスポーツ復帰や全治までの期間は?リハビリ方法なども合わせて解説
前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)とは、膝関節の中にあり、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)とすねの骨である脛骨(けいこつ)をつなぐ靭帯です。膝を安定させたり、膝の回旋をサポートする役割があります。急に止まったり、ジャンプをしたりするスポーツをしている方が損傷しやすい部位です。
一度断裂した前十字靭帯は、自然に治癒することはありません。手術を受け、全治までリハビリが必要です。一般的に、歩けるまでに2〜4週間、スポーツ復帰までに8〜10ヶ月程度の時間がかかります。
本記事では、前十字靭帯が断裂した場合の治療について紹介します。
前十字靭帯は手術しないと全治することはない
前十字靭帯を一度断裂してしまうと、自然治癒はしません。関節内にあり、血流が乏しい部位であるために、回復に必要な血流が届きにくいためです。靭帯の機能を再度獲得するには、手術が必要です。靭帯の機能がないままに、ジャンプやカットなどの動作を行うと、「膝崩れ」と呼ばれる膝のずれが生じます。膝崩れは繰り返すと、少しづつ関節が破壊されていきますので、膝崩れを繰り返さないことが重要です。
高齢の方や、損傷の程度が軽い方であれば、装具療法などで様子を見るケースもありますが、手術無しには靭帯の機能は改善しません。不安定さが残ったり、膝崩れが繰り返したりします。装具やリハビリで、受傷直後の痛みは改善しても、不安定さは残るので、膝崩れを起こさないよう注意して生活を続ける必要があります。不安定さを残したまま、スポーツに復帰することは困難です。
前十字靭帯断裂(損傷)が全治するまでの期間
前十字靭帯を断裂したのちに、手術を受けた場合に全治までにかかる期間は、8ヶ月〜10ヶ月程度です。手術後はリハビリに取り組みながら、段階的に回復を目指します。一般的に次のように回復の経過をたどるでしょう。
1.術後2週間程度:膝の装具固定
2.術後2〜4週間程度:歩行可能
3.術後8〜10ヶ月程度:スポーツ復帰
ただし、上記はあくまで目安です。術後の経過や競技の種類、希望する回復の程度によって異なることに注意しましょう。
それぞれの段階について詳しく説明します。
前十字靭帯断裂(損傷)の術後から入院期間
手術後は2~4週間程度のリハビリを入院で行うことが一般的です。手術直後は膝に痛みや腫れが見られるため、鎮痛剤の投与や患部の冷却をしながら、安静に過ごすことになるでしょう。術後の固定期間は術式によりますが、約1~2週間程度です。松葉杖を使用した歩行の練習も開始されるでしょう。手術によって固まった膝の可動域がある程度回復して安定して歩行できるようになれば退院可能となります。早期の退院プログラムでは、予期しない荷重など再断裂リスクもありますので、無理な早期退院は勧められません。医療機関により許される入院期間も異なりますので、松葉杖での退院が困難な場合には、十分な術後の入院リハビリ期間が提供される医療機関を選ぶことも大切です。予め、どの程度の術後の入院期間が許されるかは術前に確認することが望ましいです。
前十字靭帯断裂(損傷)の手術から歩けるようになるまで
手術後から、松葉杖なしで歩けるようになるまでには約4週間程度かかるでしょう。
膝の安定性に不安が残る場合は、サポーターを使用することもあります。
前十字靭帯断裂(損傷)からスポーツ復帰できるようになるまで
スポーツ復帰ができるようになるまでは、個人差があるほか、競技の種類にもよりますが、手術後8〜10ヶ月程度が一般的な目安です。
膝の状態を見ながら段階的にトレーニングをおこない、少しずつ競技に復帰していくことになるでしょう。
前十字靭帯断裂(損傷)の手術後から全治までのリハビリ
スポーツ復帰をするには、手術直後から段階的にリハビリに取り組まねばなりません。
一般的な時期とリハビリの内容は以下のとおりです。
手術からの経過時間 | 主なリハビリの内容 |
---|---|
直後 | ・患部のアイシング ・術後翌日から膝の痛みをみながらリハビリを開始します。 して着地したりするときに膝を支える |
1週間 | 術後痛みのない範囲で足首の運動や足の指のグーパーの体操を行います。 リハビリ後や毎食後、寝る前にアイシングを10〜15分行います。膝を動かさない筋力訓練も併用します。 |
2〜3週間 | 術後1〜2週間は装具固定を行います。その後、手術した膝の曲げ伸ばしを行います。 |
4週目〜 | 術後2週間目で体重の⅓をかける練習、3週間目で体重の⅔をかける練習、4種間目で全体重をかける練習を行っていきます。 体重をかける割合や膝の状態に応じてリハビリメニューの追加や更新を行っていきます。 |
1〜3ヶ月(日常生活動作改善のためのリハビリ) | 術後1か月で松葉杖なしでの歩行が可能になり、次第スポーツ復帰に向けたトレーニングを段階的に開始していきます。 【主なトレーニング】 ・両足スクワット ・片足スクワット ・フロントランジ ・ニーベントウォーク(両足スクワットの姿勢のまま歩く) |
3〜4ヶ月 | ・ジョギング ・その他基本トレーニング+マシンによるトレーニング |
6ヶ月(スポーツ復帰に向けたリハビリ) | 術後半年程度でバイオデックスという筋力測定装置を用いて測定を行い、十分な筋力回復が得られていれば、スポーツ復帰に向けたジャンプ動作や切り替えし動作の練習を行っていきます。 【主なトレーニング】 ・両足スクワットからのジャンプ(前後左右) ・台からのジャンプ ・片足スクワットからのジャンプ(前後左右) ・ストップ動作練習 ・ターンの学習 ・ジグザグ走 ・バランス練習 等 |
8ヶ月〜 | スポーツ復帰の許可が出たら種目別に応じたトレーニングを行っていきます。 反復練習を行い、動作が安定かつ痛み無くスムーズに行えていればスポーツ復帰となります。 |
手術直後
手術直後は患部を安静にしておかねばならず、基本的に動かせません。痛みや腫れも強いため、アイシングによる炎症の軽減がメインになるでしょう。
しかし、あまり長時間動かさないと、筋肉の柔軟性や運動機能の低下が起こるため、患部以外の運動はおこないます。足首や足指を積極的に動かして血流を促進したり、膝以外の部位の筋力トレーニングに少しずつ取り組んだりします。
手術後1週間
手術から1週間程度経過した頃には、少しずつ患部も動かし始めます。安静状態にあったために固くなった膝以外の足の可動域と筋力の回復がリハビリの狙いです。様子を見ながら、足首や足の指を曲げたり伸ばしたりしながら動かします。
手術から1週間程度経過した頃には、少しずつ患部も動かし始めます。安静状態にあったために固くなった膝以外の足の可動域と筋力の回復がリハビリの狙いです。様子を見ながら、足首や足の指を曲げたり伸ばしたりしながら動かします。
手術後1〜2週間
術後1〜2週間は装具固定を行います。その後、手術した膝の曲げ伸ばしを行います。
膝を動かさない筋力訓練も開始されます。
手術後4週目以降
術後2週間で体重の⅓をかける練習、3週間で体重の⅔をかける練習、4週間で全体重をかける練習を行っていきます。
体重をかける割合や膝の状態に応じてリハビリメニューの追加や更新を行っていきます。
手術後1〜3ヶ月(スポーツ復帰に向けてのリハビリ)
術後1か月で松葉杖なしでの歩行が可能になり、次第スポーツ復帰に向けたトレーニングを段階的に開始していきます。
【主なトレーニング】
・両足スクワット
・片足スクワット
・フロントランジ
・ニーベントウォーク(両足スクワットの姿勢のまま歩く)
手術後 3〜4ヶ月
手術から3〜4ヶ月程度経過すると、膝がある程度の負荷に耐えられるまでに回復します。軽いジョギングができるようになるほか、マシンによるトレーニングなど、より高い負荷がかかるトレーニングにも取り組めるようになるでしょう。
手術後6ヶ月以降
半年程度すれば、より安定性が見られるようになります。引き続き筋力トレーニングに取り組みながらも、方向転換動作やジャンプなどの練習もできるようになるでしょう。再発防止のために、膝への負荷を抑える方法を身につけます。
競技の練習も徐々に開始できるでしょう。
手術後8ヶ月
手術から8ヶ月程度経過した頃には、日常生活への完全復帰はもちろん、競技への復帰も期待できます。もちろん個人差や競技の種類にもよるため、あくまで目安です。再発を防止するためにも、必ず医師や理学療法士の指導に従いましょう。
まとめ
前十字靭帯は一度断裂すると自然治癒は期待できません。完全な回復には手術と長期にわたるリハビリが必要になるでしょう。
手術後は、松葉杖無しの歩行が可能になるまで約3〜4週間、スポーツへの復帰には約8〜10ヶ月程度のリハビリ期間を要します。再発を防止するためにも、医師や理学療法士の指導の下、段階を踏んで適切に進めることが大切です。不安や焦りもあるかもしれませんが、一つ一つ着実に治療を進めましょう。それがスポーツへの完全復帰への一番の近道です。
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サイト監修者について
整形外科河村医院 院長
河村 禎人
スポーツ整形外科や膝関節の治療を専門として努め、一般整形外科以外にも関節の変形による痛みに対してのリハビリなど手術によらない治療にも取り組んできました。
また、前十字靭帯断裂や半月板損傷などの膝関節鏡手術を中心として、スポーツ外傷、障害の手術やリハビリに取り組んでいます。
ジャンパー膝は、膝蓋骨(膝のお皿)の下部からすぐ下の靭帯にかけて痛みが生じます。当院ではスポーツ整形を専門とした医師が在籍し、保存的療法から手術療法・トレーナーによるリハビリまで幅広い治療に対応しています。